雨上がりの景色を夢見て
トントン

「はい」

振り向くと、身支度を整えた高梨先生が照れ臭そうに入ってきた。

私を見ると、口元に片手を添えてほんのり顔を赤らめた先生。

「…綺麗だよ、雛」

「…夏樹さんこそ…かっこいいです」

今日は私達の結婚式。あいにく、外はザーザーぶりの雨。

梅雨の時期だから、仕方がないと思う。

「…体調は、平気?」

「はい。いざとなったら、藤永先生もいらっしゃるので」

冗談半分でそう言うと、高梨先生も、

「確かに。心強い」

と微笑んだ。

「…本当は、今すぐにでも抱きしめたいけど…せっかく整ってるから、我慢するよ」

そう言って、先生は私の手をとって、手の甲にキスを落とす。

不意打ちな行動に、私の心拍数が一気に上がる。

「雛、また後で」

先生はそう言うと、優しく微笑んで部屋を出て行った。

私は熱くなった頬を両手で抑えて、鏡を見る。

顔、真っ赤。

鏡越しに映る背後の窓からは、ザーザーぶりの雨が見えた。










チャペルの扉の前で、仁さんと並ぶ。

「雛ちゃん…綺麗だよ」

すでに涙ぐむ仁さんの姿に、私の中で込み上げてくるものがある。

「…仁さん…今までありがとう」

そう言うと、仁さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「まさか、俺と歩いてくれるなんて…」

「だって…私のお父さんでしょ?」

面と向かって、そう言ったのは初めてだと思う。

「…泣くの、我慢だな」

ぐっと涙を堪える仁さんに、私は嬉しくて微笑んだ後、前を向いて扉が開くのを待った。


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