雨上がりの景色を夢見て
菜子の好きなドーナツでも買っていこうかしら。

帰宅の準備をしながら、駅近くのドーナツショップが春限定の新商品を宣伝していたのを思い出した。

「お先に失礼します」

「お疲れ様です。お気をつけて」

そう言って笑顔で手をヒラヒラと振る高梨先生に、私はお辞儀をして職員室を出た。

スマホのライトを照らして、駐車場へ向かう。初任の時にローンを組んで購入したワインレッド色の車の扉を開けると、お気に入りの芳香剤の香りに包まれた。

一度マンションへ帰り、普段着に着替えてから、車で駅近くのドーナツショップへ向かう。菜子が好きそうなストロベリーチョコがコーティングされているドーナツが目に入り、トレーにのせた。新商品からスタンダードなものまで1人2個ずつと考えて、全部で8個選んだ。

車の中は、一瞬のうちにドーナツの甘い匂いに包まれる。菜子の喜ぶ顔を思い浮かべながら、車を走らせた。




ガチャッ

「雛ちゃん、おかえり！」

家の扉を開けると、リビングからすぐにあどけない笑顔で顔を出した菜子の姿に、自然と顔の筋肉が緩む。

「ただいま。はい、お土産」

「あっ、ドーナツだ！やった！」

菜子は甘い匂いの漂細長い箱を受け取ると、鼻から長く息を吸い込んだ。その仕草を見るだけで、買ってきてよかったと思える。





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