雨上がりの景色を夢見て
『怖いんだもん。お腹切るんだよ?それに、もし両方取ることになったら…将来…』

続く言葉が出てこないけれど、言いたいことは痛いほど伝わった。

今回、確実に片方の卵巣は摘出する。開いてから、念のためもう片方の卵巣の状態を確認して、残すかどうか判断するらしい。

結局、当日にならないと、はっきりしない事も、不安につながっている。

けれど、俺が無責任に『大丈夫』だと言えない事で、フォローする言葉が出てこない。

そっと、震える夏奈の手を握る。

『…八つ当たりしていいから』

今の俺にできるのは、夏奈の気持ちのぶつけどころになること。

『…ふっ…何それ。私めちゃくちゃ八つ当たりするわよ?』

夏奈は、呆れた様子で少しだけ笑うと、悲しげな表情のまま無理やり笑った。

『…気合いで、受け止める』

『…馬鹿、本当に、馬鹿…。でも…ありがとう』



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