雨上がりの景色を夢見て
それから数日後に、夏奈の手術が行われた。今回、もう片方の卵巣には異常が見られず、残すことができた。

その事に、夏奈自身が心の底から安堵したように見えた。

その後、抗がん剤治療も続けて、経過も良くなり、無事に退院。ただ、数年間の間に再発する可能性もあり、定期的な検査は受け続けることになった。

病休をとっていた美容系会社にも短時間勤務から身体を慣らし、半年後にはフルタイムで働けるまでになっていった。

そして、夏奈の手術が無事終わった次の年の4月、俺も晴れて、教員1年目がスタートした。

全てが順調に進んでいて、すっかり元の生活に戻ったと思われていた。

なのに、手術から5年後の28歳の時、夏奈の癌が、再発した。

『…もう1つも摘出だって。じゃないと、他のところにも転移する可能性があるんだって』

すでに入院していた夏奈の元に駆けつけると、泣くわけでもなく、無理に明るく振る舞うわけでもなく、ただ淡々と無表情で話した。

俺は、かける言葉が見つからず、ただ黙って夏奈のベットの横の椅子に座ることしかできなかった。



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