雨上がりの景色を夢見て
「雛、おかえり」

菜子に手を引かれて、リビングに入ると、母は大皿にすき焼きの野菜を並べていた。

「ただいま」

「お母さん、見て!雛ちゃんドーナツ買ってきてくれたんだよ!」

「あら、よかったわね。夕飯の後に食べようね。雛、気を遣わなくてもよかったのに」

菜子から受け取った箱を、キッチン横のテーブルに置くと、母は少し申し訳なさそうに言った。

「ううん、菜子、ドーナツ好きだから」

「そうね、ありがとう。もうすぐ仁さん帰ってくると思うから、ソファーで休んでて?」

母の言葉に返事をして、ソファーに腰掛ける。仁さんは菜子のお父さんで、私にとっては義理の父。私が高校2年生の時に母は仁さんと再婚した。その時にお腹にいたのが菜子。本当の父とは、私が小学校2年生の時に離婚して、それ以来会っていない。

「雛ちゃん、オセロしよ?」

「うん、手加減なしよ」

菜子が私を『雛ちゃん』と呼ぶのは、仁さんの影響だ。高校2年生だった私を呼び捨てするほど距離が近かったわけでもないため、ずっと『雛ちゃん』と呼んでいる。そのため自然と菜子は同じように呼ぶようになった。





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