雨上がりの景色を夢見て
テーブルの上の麦茶の入った紙コップを手に取り、一気に飲み干した近藤さんは、恥ずかしそうに口を開いた。

「実はさ…GW中に道端で佐々木くんとバッタリ遭遇して」

「うんうん、それで?」

楽しそうに、近藤さんの話を聞く清水さん。

この話の流れは、きっと恋バナだと私でさえ察しがつく。

「私と同じく、佐々木くんも本屋さんに行く予定だったらしく、一緒に行って…」

「うんうん」

「…好きな作家が同じで、話がものすごく盛り上がったの」

読書が趣味で、しかも結構マニアックな作家が好きな近藤さんが、話が盛り上がってとても楽しかったのは想像できる。

「…そしたら、帰り際に…告られて」

近藤さんは、そう言うと少し頬を赤らめて俯いた。

「わぁー…それでそれで?」

「…逃げたの、私」

「えっ?」

えっ

〝逃げたの〟の一言に、パソコンで仕事をしていた私は、清水さん同様、心の中で驚いた。

「…そうなるよね、反応。…そもそも、佐々木くんとは今年同じクラスになるまで接点なかったし、なのに私の好きな作家と意気投合するなんて…。そもそもさ、爽やかイケメングループに分類されるような佐々木くんが、私に告るなんて…あり得なさすぎて…パニックになって…」

そう言って、頭を抱える近藤さん。

近藤さんの言葉を聞いて、私から見たら、近藤さんだって、可愛らしいモテモテ女子に見えるけれど、本人からしてみたらそうではないのだと、不思議に思う。

同時に、2年B組の水泳部の佐々木くんを思い浮かべる。少し茶色がかった短髪に、少し日に焼けた健康的な肌。目はやや切長だけれど、よく笑う生徒で、優しい雰囲気が滲み出ている。確か、水泳の特待生で、入学してきた生徒だ。






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