雨上がりの景色を夢見て
薄暗い中、公園のベンチに座り、俯いたまま気持ちを落ち着かせていると、人影が近づいてきたことに気がついてゆっくりと顔を上げた。

『やっぱり雛だ…。どうしたの?』

目の前にいたのは、その頃の私が唯一心を開いていた彼だった。

『貴史…』

『…なんか飲もうか。俺あそこの自販機で買ってくるから、待ってて』

鞄を私の隣に置いて、駆け足で少し離れた所にある自動販売機に向かった貴史の後ろ姿を見て、自然と冷静になっていく。

戻ってきた貴史の手には、私の好きなミルクティーの缶が握り締められていた。

『…お母さんと何かあった?』

どうしてこの人はすぐに分かるのだろう。

単刀直入の彼の言葉に、私の視線が泳ぐ。

『大丈夫だから』

何も言わない私の首に、フワッと自分のマフラーを巻いてくれた。マフラーに残る貴史の体温が、私の冷え切った体を温めてくれる。

私は正直に、母とのやりとりや、自分の気持ちを話した。





< 9 / 538 >

この作品をシェア

pagetop