雨上がりの景色を夢見て
「中川先生、こんにちは」

「こんにちは」

挨拶をして、夏奈さんの隣に座った高梨先生から、微かにシャンプーのような匂いがした。気がついたのは夏奈さんもだったようで、夏奈さんは高梨先生の髪の毛に手を伸ばした。

「シャワー浴びてきたんだ?」

「流石に、土まみれで来れないからな。飲み物は何頼もうかな」

そう言って飲み物を選ぶ高梨先生。何気なく、高梨先生を見ていると、目があった。

視線が交わって、一瞬動揺したけれど、高梨先生は優しく微笑んで、またメニューに視線を移した。

大人の余裕というものなのだろうか。

さっきの電話のように、驚くことはあっても、あまり動揺しておどおどするところは見た事がない。

「ね、夏樹、なかなかいい男でしょ?」

私の様子を笑顔で見ていた夏奈さんの言葉に、以前温泉で言われた〝気が向いたら〟の話を思い出した。

肯定してしまったら、気が向いてしまった事になるのではないだろうか。でも本人の手前、否定したら高梨先生にものすごく失礼になると考えると、考え込んでしまう。

「夏奈、中川先生困ってるから、揶揄うの、なし」

高梨先生は、淡々とそう言うと、店員さんを呼んでアップルパイとアイスコーヒーを注文した。



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