パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 空港で初めて見た、あの時よりももっともっと愛おしい。

 貴堂はふわりと風を身にまとっている紬希を抱きしめた。
「あの時抱きしめたいと思った君が僕の腕の中にいる」
「え……?」

「空港で、花小路くんにシャツを届けに来ただろう?」

 紬希もそれは覚えている。
 シャツが仕立て上がったとメールしたら、珍しく雪真に送るから、空港に持ってきてくれないかとお願いされたのだ。
 その時にデッキのあの端なら人目には付かないから、と教えられた。

「は……い」
「見たんだよ。その時に紬希を」
 貴堂が優しい顔で紬希を見ていて、そうっと指で紬希の頬を撫でる。

「花小路くんは紬希を風から守ってた。僕が……守れたらいいのに、と思ったんだ」

 紬希は頬が熱くなるのを感じた。
 レストランで会ったのが初めてだと思っていたのだ。
 まさかその前に姿を見られていて、その頃から気持ちを持っていてくれたなんて。

「大人しいだけの女性かと思えば、意外なほど仕事にはストイックだし……昨日の、海の表現も……紬希らしいと思ったよ」
「恥ずかしい……もっと、素敵な表現がありますよね」
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