見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!
そう、彼女はまさしく待ち伏せていたのだろう、私を。
こちらを睨み付ける目つきからして、それ以外の目的があるとは思えない。何故なのか、までは想像しきれないけど。
私までが立ち止まって通行の邪魔になるわけにはいかない、と思い、一瞬止めた足を仕方なく動かす。たぶん近づいてくるんだろうなと考えて人の流れから外れた方に歩くと、予想通り、早紀子さんは私を見失うまいと思ってなのだろう、断固たる顔つきで早足で近寄ってきた。
駅の構内と通りの境目、大きな柱のそばにたどり着いた時、早紀子さんは詰め寄らんばかりの距離で私を睨んでいた。
「お……おはようございます」
とりあえず挨拶はしておくべきかと思ってそう言ってみたけど、早紀子さんは返さなかった。代わりに「これから仕事?」と聞いてくる。
「そうですけど」
「……本家の跡継ぎの妻が、中小企業の事務員だなんて」
いかにも苦々しげに言われたので、私は反論する。
「あの、仕事を続けることは結婚前に、主人も主人の両親も納得済みです。あなたから見れば私が働く必要なんてないのかもしれませんが、私は自分の仕事が好きですし、誰かの役に立ってると自負してます。うちの会社は中小ではなく大手ですけど、仮に中小企業だとしてもどんな会社だって世の中に必要な仕事をしていますし、規模や職種で区別するものではないと思います。主人だってきっとそう言うでしょうし、それに」
「主人、主人って何様のつもり?」
「──え?」
唐突に言葉を遮られて、あらためて早紀子さんを見る。彼女はいまや、何年も探していた親の仇をやっと見つけた時のような、憎しみをあふれさせた表情をしていた。