見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 あれも、今後は必要以上に馴れ合うつもりはない、という意思表示だろうか。
 ……たぶん、いや、きっとそうなんだろう。

 私たちは、利害の一致で結婚した、契約関係。
 それを忘れちゃいけない。

 なんだかとても、気が抜けてしまった。
 ひとりになった新居で、ぼそぼそと朝食のトーストをかじり、身支度をした。

 そうしていつも通り、先週までと同じように出勤。違うのは家からの道と駅の乗り換え。ちょっとぼんやりしすぎて、危うく会社の最寄り駅を乗り過ごしそうになってしまった。

 会社のあるビルに入り、エレベーターで八階まで上がる。本当に、これまでと変わらない、いつも通りすぎる朝だ。
 そんなふうに思いながらエレベーターを降りた途端。

「おはよう、相崎さん!」

 エレベーターホールのすぐ隣にある給湯室から、飛び出てくる人影があった。
 同じ営業部で営業事務をしている先輩、永瀬(ながせ)さんだった。一昨年、大口顧客からの注文を一緒に手配して以来、他の事務の人よりはよく話す。もっとも永瀬さんの話の半分以上は、社内の誰と誰が付き合っているとか、どこの会社と合コンがあったとかの恋バナ関連だ。

 今日も今日とて、好奇心を目と顔いっぱいに浮かべている様子の彼女を見れば、何を話題にしたがっているのかはたやすく見当がつくというもの。
 できればスルーしたかったが、行く手をうまく阻まれてしまったので叶わなかった。
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