見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 応接室の扉が閉じてすぐ、給湯室に早足で向かった。

 お茶は4人分、来客2名と、うちの部長と課長。
 部長は濃い目の熱いのが好き、課長は中ぐらいでやや温め。
 インプットしているお茶の好みを思い出しながら、注意して淹れる。

 お盆を手にふたたび応接室に行くと、中では話が盛り上がっている様子で、誰かの笑い声が扉越しに聞こえた。

「失礼いたします」

 ノックをして入室する。
 部屋の奥、上座に座る来客へ先にお茶を出す。

「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます」

 深原常務、そして坂根部長の前に湯呑みを置く。

 ふと、視線を感じて顔を上げると、坂根部長が私を見つめていた。
 それは、お茶出しの様子をうかがうと言うには少し真剣みが強くて、内心ちょっと戸惑う。

 ぱちりと視線が合った。
 美形は、目もきれいらしい。少し茶色ががった黒目は、部屋の照明を反射して光っている。
 そこに映った私の顔は、いつもと同じであるはずなのに、違う人物のように思えた。

 吸い込まれそう……

 そんなことを思っていた時、応接室に掛けている時計が、正時のメロディを流した。思わず肩をびくりと揺らしてしまう。
 いけないいけない、今は仕事中、来客対応中。
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