見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!
──この結婚は、わからないことだらけだ。
新居となった部屋に入ると、しんと静まり返っている。一般住居としては防音が売りの造りだから他の部屋の音は聞こえないし、部屋には誰もいないのだから当たり前だ。
時刻は午後9時前。
結婚して半月──毎日、独身時代と同じように仕事をこなし、毎晩こうやって誰もいない新居に帰ってくる。
その半月の間、夫となったはずの人を、私はほとんど見かけていない。
ほぼ毎朝、私が起きるより先に出勤。
そしてほぼ毎晩、私が寝ついてからか、寝ようとする頃に帰ってくる。彼の姿を見て声を聞くのはその時ぐらいだ。
しかも会話は、テンプレートのように決まりきったもの。
『お帰りなさい』
『ただいま。先に寝てて』
『わかった。おやすみ』
最初の頃こそ、作っておいた夕食を温めて出すぐらいはしようと思って、提案もしたのだ。けれど『外で食べてきたから』の一言ですげなくあしらわれた。
以後数日、同じやり取りが繰り返されたので、私は稔くんの分の夕食を作ることをやめてしまった。
正確に言えば、毎晩、2人分作ってはいる。
でも食べないことがわかりきっているから、毎回もう一人分は、翌日のお弁当のおかずになっているのだった。
我ながら、奇妙な新婚生活と言わざるを得ない。