見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!
自宅の規模を気にせずに言うなら、ほとんど、一人暮らしと変わらないとさえ思う。なにせ、土日ですら、彼は朝早く出て遅くに帰ってくるのだから。
いくら、大手商社の部長職が忙しいにしても、これほどにまで休日出勤が必要なものだろうか?
そんな生活が続いて一ヶ月ほど経った頃。
土曜日、めずらしく午前中は家にいた稔くんに、私はおそるおそる声をかけた。
なぜ「おそるおそる」なのか、と言うと、リビングダイニングのソファに腰掛け新聞を広げる彼からは、なんというか「話しかけないでほしい」的なオーラが漂っていたから。
表現が大袈裟かもしれないが、部屋に入って「おはよう」と言った私の顔も見ずに挨拶だけ返してきた様子からすると、そんなふうに感じられるのだ。
「……あの、稔くん」
返事はない。意を決して、続ける。
「ちょっと聞いてもいい?」
「──何?」
今度は返事があったことに少しほっとしながら、尋ねた。
「今日は仕事、ないの?」
「昼から行くよ。ああ、昼飯は外で食べるから気にしないで」
「……どうしてそんなに、土日まで忙しいの」
「いろいろ案件があるんだ。部長になってまだ日が浅いから、顧客の情報を調べて頭に入れるのも時間がかかるし」
ぱっと聞くと、何の隙もない完璧な理由である。
けれど、まるきり迷いも息継ぎもない、用意されたメモを読むような話しぶりに、逆に違和感を覚えた。