見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 それこそ例えではなく、私にこう聞かれたらこう答えよう、と前々から答えを準備していたのではないだろうか。

 とは思っても、感じた違和感を打破するほどの知恵も、うまい切り返しの言葉も、私は持ちあわせていなかった。悔しいような寂しいような奇妙な気持ちで、こう応じるしかない。

「……そうなの」

 私の声音が、明らかにこわばって、なおかつ意気消沈しているように響いたからだろうか。稔くんが新聞から視線を外して、私の方に向けた。
 こんなふうに、まっすぐ目を合わせるのも、そういえばいつぶりだろう……この一ヶ月ほどの間、いつも忙しそうにしてまともにこちらを見ないか、振り返るような斜め位置からの視線ばかりだった気がする。

 ──だけど、見つめてくるその目に、感情らしきものは浮かんでいない。
 ちょっと気になったものに珍しく目を向けてみたけど、興味は持てなかった──そう言っているかのような。

 ひんやりとした、氷に似た塊が、胸の内に落ちたみたいに感じた。
 私が固まっている間に、視線はすっと逸らされる。

「ごめん、思い出した仕事があるから、早めに行くことにする。今日も夕飯はいらない」

 言いながら、横をすり抜けて部屋を出ていく稔くんを、私は振り返らなかった……振り返れなかった。
 彼の、私への興味の薄さを、まざまざと見せつけられた気がして。

 私たちって、何のために結婚したんだろう──会社のため、親のため?
 これ以上見合いを進められるのは避けたい、というふうに言ってはいた。けれどそれは一種の方便で、ある程度は、私を憎からず思ってくれている。そんなふうに思っていたのは、私の方だけなんだろうか……?
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