見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!
ぺこりと頭を下げて退室する。
給湯室にお盆を返却し、自分の席に戻ってきてやっと、ふうっと息をついた。
「はあ……」
ため息を思わず声に出してしまうと、今度は隣の席の後輩が、私をじいっと見てきた。
「なに? 戸川さん」
「さっき案内してた人、フェアルートの常務さんですよね。一緒にいたイケメンは?」
「ああ、今月営業部長になった坂根さんだって」
「何歳ぐらいですかね、彼女とかいるのかなっ」
食い気味に尋ねてくる戸川さんは、そういえばカッコいい男性に目がなかった。
「さあ、どうかな。私と同世代に見えたし、指輪はしてなかったと思うけど……」
あのハイレベルな外見、それにフェアルート商事の営業部長に就くだけのスペックがあるなら、彼女のひとりやふたりはいるのではないだろうか。
やや遠回しにそう言ってみると、戸川さんは「うーん」と首をひねった。
「でも、結婚してないなら私にもチャンスがあるってことですよね。今度あの人が来た時にはお茶出し、私がしますからっ」
「はいはい」
適当に受け流して、仕事に戻る。
……としつつも、私の方こそ、さっき目が合った瞬間のときめきが、頭を離れていなかった。思い出すとまた、心臓が騒ぎ出しそうになる。