見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 そういえば再会してからこちら、彼が自分の苦労話をしたことはなかったなと思い返す。もっとも、じっくり会話する機会そのものが、結婚以降あまりなかったけれど。
 尋ねてみたい気もした──だけど今、尋ねてもいいものだろうか。

 待って、今はそれどころじゃない。
 坂根本家でのパーティーに夫婦で出席しろと連絡があった、と言われているのだった。

 両親はともかく、私自身は、そういった大きな集まりに出席した経験がない。例外は自分の結婚式や披露宴ぐらいだ。あの時は、それこそお互いの親戚一同が集められたから出席者が多くて、ホテルの大ホールでも席次を決めるのに苦労したほどだった。
 けれどあれ以来、親戚の人々とは顔を合わせていない。お礼状を送った程度だ。式や披露宴でだって、形ばかりの挨拶を交わしたぐらいで、まともな会話はしていない。

 ──親戚の多くには、必ずしも結婚を歓迎されていない。
 私が受けた印象はそれだった。

 挨拶の言葉、お礼状への返信の端々、あるいは裏側で、坂根家の恥にならないようにと言われている気がしたものだ。
 そんなふうに親戚の方々に思われている私が、一同が集まるパーティーに出て、どんな扱いを受けるだろうか……不安と緊張が胸のうちで渦を巻く。

 稔くんも、お礼状の返信はひととおり目を通しているから、それは察していると思う。だからこの話題を出す時に「ごめんなんだけど」などと口にしたのだ。
< 78 / 120 >

この作品をシェア

pagetop