見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!
稔くんの、何度も見せられた冷たい目つきが頭をよぎる。今もおそらく同じような目をしているのだとすれば、彼女たちの反応は当然と思えた。
「君の家との件については、うちから正式に断りを入れたはずだよね。早紀子さん」
「……え、ええ」
「史江さんはそのことを知らなかったのかな。たとえそうだとしても、今はもう関係ない話だ。俺が妻に選んだのは明花なんだから」
左肩に置かれた手に、ぐっと力が入る。
「彼女は妻としてきちんと務めてくれているし、女性としても素敵な人だ。いろんな意見はあるみたいけど、俺は明花以外の女と結婚する気はなかったし、これからもそうだ。たとえ親でも文句は言わせない。ましてや君たちが口を挟む問題じゃないよ。今後は心得てほしい」
抑えた、それでいて有無を言わせない口調で、稔くんは二人に向かってそう告げた。何故か声量は不自然に大きめで。
そんな大きな声で言ったら、と思いながら周囲に目をやると、やはり大半の人が何事かとこちらを向いている。……いや、よく見ると、人々の顔には好奇心も浮かんでいた。なりゆきを窺っているような、そんな空気。
「わかってくれたかな、二人とも」
「……は、はい」
相変わらず青ざめたままの彼女たちは、今や蛇に睨まれた蛙のような風情で、縮こまっていた。
じゃあ妻に紹介したい人がいるからこれで、と稔くんが言った途端、二人はシンクロした動きでこくこくと頷いて、そそくさと先にその場を去っていった。