見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!
一瞬、会場全体がざわめいたように思った。
もう一度周囲に目を走らせると、好奇心の中にもどこか、感嘆のような色を含んだ視線がそこかしこから向けられている。
なるほど、彼が大きな声を出した理由はこれなのか。わざと周りにも聞かせることで、自分の意思のみならず、私の立場もはっきりと示した。他の女性を妻にする気はないという、親族に向けての宣言。私が彼らに、決して良くは思われていないのを知っているからこそ。
胸のうちに、じんわりと嬉しさの火がともる。
紹介したい人がいる、と言った稔くんだけど、私の肩から手を外さないままに誘ったのは、料理の大皿や飲み物が並べられたテーブルだった。ちなみに今日の集まりは立食形式である。
「誰かに挨拶するんじゃないの?」
「後でいい。人が全然途切れなくて、何も食べてないだろ」
「そうだけど──ありがとう」
若干戸惑いつつも、空腹を感じていたのも事実だったので、オードブルやパンから少しずつ皿に取った。
ところで、と軽く話題を変えるように稔くんに問われる。小声で。
「責任って何?」
飲み込みかけていたサラダのミニトマトに、危うくむせそうになる。
「明花、責任があるから俺のそばにいるの」
そんな所から聞かれていたとは。何とかミニトマトを飲み下して目線を上げると、もはや見慣れた冷ややかな目とぶつかる。⋯⋯表情が笑っているだけに、なおさら怖い。
「え、えっと」
「後でゆっくり聞かせてもらうから」
私の反応を待たずに話を終わらせて、稔くんは自分の皿に取った物を食べ始める。そのスピードを見て、私も早く食べなくちゃとは思うけど、どうにも喉を通らない。結局、少しずつかじっただけで、残してしまった。
その後で彼に紹介された人たちや、話した内容に関しての記憶は、何ひとつまともに残らなかった。