見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 ぎゅっと手を握りながら謝られて、言葉に詰まる。

 不愉快……といえばそうだし、不安でもあった。契約結婚だとわかっていても、あまりにもよそよそしすぎる気がして。

 その頃とは真逆の雰囲気と状況に、今は至っているけど──頭の隅では、これは契約なんだから忘れないように、と常に唱えている心持ちだった。そうしていないと、いざ離婚となった時に、耐えられなくなる気がして。
 だから本当なら、この誘いも断るべきなのだろう。でも。

 稔くんの言い分じゃないけど、私はもう、私自身の気持ちを制御できなくなってきている。だから──彼との思い出をひとつでも増やしたい、いつか別れるのならばなおさら。
 そんなふうに思ってしまったら、抑えられなかった。

「俺と旅行するのは嫌?」

 問いかけに、すぐさま首を横に振った。不安げだった顔が途端に、嬉しそうな笑みに満ちる。

「よかった。じゃあ、行きたいところ考えといて。どうせなら海外がいいかなって俺は思ってるけど、国内でも全然かまわないし」
「うん、考えとく」

 楽しげに語る彼の顔を、できれば一生見ていたい。
 叶わない願いを、心の底から、今の私は願っていた。
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