見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!


 満員の電車から、人波に押し出されるようにしてホームに降りる。
 何年も経験して慣れているとはいえ、毎朝ともなればやはり大変だ。結婚する少し前、朝は車で送るよと稔くんが言ってくれたが、彼の会社とは方向が真反対だから申し訳なくて遠慮した。それ以後も時々言われているけれど、ずっと断り続けている。

 階段やエスカレーターに向かう人の流れを避けた位置に立ち、ふう、と長い息を吐いた。

 ……なんとなく、目の奥で何かが回っているような感覚がある。そのせいで心なしか、頭がぼうっとする。ここしばらく──10日ぐらい、毎日だった。
 貧血やめまいの持病はないのに、どうしてだろう?
 特に仕事が忙しいとか、残業が多いとかでもないのに……もしかして寝不足気味なのがたたってる?

 そう考えて、連想的にまた、夜のことを思い返してしまった。賑わうホームでひとり、熱くなる頬を手で覆う。せわしない時間帯で誰も気にしてはいないだろうに、周囲から注目されている錯覚にとらわれてしまう。
 頬をひとさすりして、手のひらで軽くはたいた。
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