見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!
もしかしたら結婚後の、気づかないうちにたまった疲れが、今になって出てきているのかもしれない。自分で言うのもなんだけど、いろいろあったから──たぶん、いや、きっとそうだ。
やや強引に自分の中で結論づけて、もう一度頬をはたく。
正直言うと今朝は、いつも以上に頭が霞みがかっている感覚なのだけど、だからといって簡単に欠勤するわけにもいかない。営業事務の仕事は、誰にでも代わりうる内容かもしれないけど、それはつまり、一人が欠ければ他の事務担当に業務のしわ寄せが行くということでもある。
高熱が出たとかならともかく、単なる寝不足や疲労の蓄積で、同僚たちに迷惑は掛けられない。
そっと深呼吸をする。肺にひんやりした空気が入って、ほんの少しだけ頭の霞が薄れたように感じた。きっと仕事しているうちに、もっと気分は落ち着いてくるはず。
そう自分に言い聞かせつつ、ホームから階段を下って、改札口を出る──と、思わぬ人物に遭遇した。
稔くんのはとこの、早紀子さん。
彼女が、川の中に放り込んだ石のように、通勤に急ぐ人の流れを分断する位置に立っていた。仁王立ちで。
なぜ彼女がここにいるのだろう。何の仕事をしているか、そもそも働いているのかどうかも実は知らないけど……仮に働いているならば、こんな通勤ラッシュの時間帯のビジネス街であんなふうに──誰かを待ち伏せするように立っている暇などないだろうと思う。