クール天狗の溺愛♡事情
「煉先輩……」

 ちょっと感動して名前をつぶやいた。

 でも、そのせいで吐き気が強くなってしまい思わず口を押さえる。


「はぁ……もうどっちだっていいだろ? 結界の外に出たんだから山の神には見られてない。力づくで追い出せばいい」

 今まで黙っていた高校生がため息をつき、好戦的な声音で言う。

「そうだな。いくら最強の鬼の一族でもまだ中学生。それにこっちの方が人数が多い」

「それにお荷物付きだ」

 眼鏡男子以外の人たちも口々にそんなことを言い出す。


 最後には眼鏡男子もため息をつきつつ「そうですね」とうなずいてしまった。

 すると一気に緊張感が増してあからさまな敵意が向けられる。

 視界の端に色とりどりの《感情の球》が見えて、赤紫が少し入った濃いグレーのモヤが揺らめいていた。


「チッ流石に分が悪いか……」

 小さくつぶやいた煉先輩は、そのままわたしに話しかける。


「美紗都、走れるか?」

「っ! ごめっなさ……今は……」

 無理、と最後まで言えなかった。

 胃の辺りがぐるぐるする。
 吐き気を抑えるので精一杯。

「何でそんな具合悪くなってんだ?……仕方ねぇ、抱えて逃げるしかねぇか」
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