クール天狗の溺愛♡事情
***

 煉先輩はわたしを抱えたまま息を切らして走る。

 何とか撒けたと思うけれど、当然探されているだろうからまたいつ見つかってもおかしくない。

 それでも、何とか結界の中には戻って来れたみたい。

 膜を潜り抜けるような感覚があって、風景が変わる。


 煉先輩は木々が多い方へ行くと、くず折れるように膝をついてわたしをおろした。

「クソッ……もうダメか……」

「煉先輩?」

 脂汗を滲ませて悪態をつく煉先輩をちゃんと見る。

 吐き気を耐えるのが精一杯だったわたしは気付かなかったけれど、彼は足にケガをしていた。

 制服のスラックスがスッパリ切れていて、血が滲んでいる。


「煉先輩!? そんな」

 逃げている途中であのかまいたちの刃に当たってしまったのかな?

 一体いつの間に?


「悪いな、これ以上は歩けそうにねぇ」

 そう言って黒い箱を取り出し、彼はその蓋を開けた。

「キー!」

 途端にコタちゃんが出てきて、すぐに光って人型になる。


「あんな狭いところに閉じ込めるなんてひどいじゃないか!……って、何があったの?」

 すぐに怒りと不満をあらわにしたコタちゃんだったけれど、今の状況がおかしいと感じ取ったのか疑問の表情を浮かべた。
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