クール天狗の溺愛♡事情
***

「そういえば美沙都はどうしてこんなところに来たんだ? 里のあやかしも滅多に来ない場所なのに」

「あ、その……」

 空が少し橙色に染まってきたころ、そう改めて聞かれてわたしは口ごもる。


「えと、迷っちゃって……」

 絶対また呆れられると思いながら口にすると、風雅先輩はため息をつきつつも仕方ないなって感じで笑っていた。

 何だかなおさら小動物とか、小さい子ども扱いされている様な気がしてくる。

 でも、気に入られた感じはするのでそこまで悪い気分でもなかった。


「そういえば引っ越して来たばかりだったな。いいよ、俺が送ってやる」

「いいんですか?」

 聞きながらも助かったと思った。

 一人で帰れなんて言われたらまた迷うに決まってるから。

 まあ、優しい風雅先輩がそんな事言うとは思わないけれど。

 そうして二人で立ち上がって、歩いて行くのかと思っていたんだけど……。

「ちょっと待ってろ」

 そう言った風雅先輩はわたしから少し離れて軽く息を吸った。

 そのまま「んっ」と全身に力を込めたかと思ったら、次の瞬間には彼の背中からバサァと黒い翼が生える。

 わたしは声も出せずにポカンとその翼を見ていた。
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