幼なじみはエリート潜水士

「俺にもくれよ」


 専務はクルーザーを運転しながら、気軽に言ってきた。

 社長の息子で会社の専務だけど、はっきりと私は言ってしまう。


「ダメです」


 村本君は真面目だな、と薄ら笑いしながら鼻をフンッと鳴らしてる。

 嫌われたり減給になっても構わない、職場に居場所が無くなるかもしれないけど、安全は大切。


「わたしも頂こう! 今日は天気がよくて暖かいし、ビールも美味しいよね」


 そう言いながら、スーさんが冷えたビールをゴクゴク飲んでる。

 私と専務だけアルコールは控え、ほかの人たちは楽しそうに会話をしていた。


 私が乗る大型クルーザーはゆっくり遅い速度のまま、防波堤を出る。

 急に船が揺れ始めた、波の影響だろうか?


「今日は波が穏やかだ、防波堤の中じゃわかんねーしな」



 そう専務が言ってるけど、これで波が穏やかなほうなんだ……



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