幼なじみはエリート潜水士
私は右手で髪をかき上げた後、左腕のダイバーズウオッチをハルくんに見せた。
「よかった……」
微笑む目前のハルくんと、私が小学生のころに遊んでいた彼の姿と重なって見える。
「ありがとう、私のヒーロー……」
「えっ、奈々ちゃん何か言った?」
「ハルくん、なんでもないよ」
小声でつぶやいた私の言葉が、彼に聞こえなくて胸をなで下ろす。
いつのまにか、お礼のつもりで買ってきたケーキを片手に、専門官のオジさまの姿がなくなっていた。
周囲に人の姿は無く、この場にいるのは私とハルくんだけ……
「このダイバーズウオッチ、もらっていいかな? 新しいのプレゼントするから……」
ハルくんは背筋を正し、顔を凜と引き締め敬礼しながら大きな声で私に言ってくる。
「奈々ちゃんより年下で幼なじみの俺ですけど、一緒にもらってください!」
「はあ?」
いきなりのことで、胸がぎゅっと締め付けられる。
心臓もドキドキして、頬も赤くなってきた。
「ハルくん、いいの……」
「だって、奈々ちゃんは俺の嫁だろ……」
その言葉がうれしくて、思わずハルくんに抱きついてしまう。
私はオレンジ色の隊員服を手で強く握りしめる。
その背中には、海上保安庁の文字が刻まれていた。