極上男子短編集
そしてバタンッとなにかを開閉するような音が聞こえてくる。


この音は洗濯機の蓋?


洗濯機の蓋は開閉のとき思ったよりも大きな音がする。


今のはその音によく似ていた。


「彩奈?」


突然名前を呼ばれて「はいっ!」と、背筋を伸ばして返事をしていた。


同時に声の主に気がつく。


その声は毎日聞いている声で、聞き間違えるはずがなかった。


「え? 彩奈、どこにいるんだよ?」


とまどったような声に私は内側からドアを強くノックした。


声はもう出ない。


ノック音を聞きつけたその人が早足で倉庫に近づいてくる。


そしてカチャカチャと南京錠を開ける音が聞こえてきた。


「彩奈?」


聞き慣れた声と、差し込んだ月明かりにホッとして全身の力が抜けてしまう。


立ち上がろうとしてもうまく行かず、倉庫に入ってきたその人に抱きつくような形で支えられた。
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