極上男子短編集
選手たちがウォーミングアップを始める頃にはベンチを拭いて、それぞれのタオルを畳んで置いておく。


考えなくてもわかる仕事をこなしていると、裕太が近づいてきた。


ウォーミングアップを終えてタオルで汗をふきに来たのだ。


いつもどおり裕太の青色のタオルを手渡そうとした、そのときだった。


横から手が伸びてきてそのタオルを掴んでいた。


驚いて顔をあげるとそこにはマネージャーの1人が立っている。


長く伸ばした爪は校則違反のネイルがほどこされていて、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。


「私が渡すから」


それだけ言うと裕太へ駆け寄っていく。


私は呆然としてその後姿を見送った。


今までそんなこと1度だってしていなかったくせに。


ウォーミングアップが終わった裕太に駆け寄ってきゃあきゃあと質問攻めにしていたくせに。


そう思って胸の奥に苦い気持ちが沸き上がってくるのを感じる。


自分と汚い部分があぶり出されてしまいそうで怖くて、すぐに視線をそむけた。

< 163 / 190 >

この作品をシェア

pagetop