極上男子短編集
ステージ上の五十嵐浩介はすまし顔でぼんやりと空中を見ていて、その表情が憎らしかった。


もしもあの時呼び止められなかったら。


もしもあの時メークなんてしなければ。


こんな気持にはなっていなかったに違いない。


自分から思い出を残そうとかんがえてしまったので五十嵐浩介ひとりの責任ではないけれど、それでもどうして引き止めたりしたんだと、問い詰めたくなった。


早く終わってくれないかな。


後ひとりということで司会はさっきからじらしにじらしている。


その時間が更に苦痛を増幅させていき、気分はどんどん落ち込んでいく。


教室へ戻ったときに美穂たちからなんと言われるだろう。


クラスメートたちからも笑われるだろう。


そんな悪い想像ばかりが先に立つ。


「さぁ、最後のひと枠を勝ち取ったのは……この人だ!!」


司会者がそう言うと同時に会場内が暗くなる。


え?


当惑して周囲を見回していると、ステージ上のスクリーンに今の体育館内の様子が映し出された。
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