極上男子短編集
司会者は有子の横に立っていて、マイクをかえすためにはそこまで行くしかない。


その間だけ少し目立ってしまうけれど、仕方がない。


ゆっくりと歩き出したそのときだった。


突然体のバランスを崩していた。


そのまま前のめりになってステージ上に倒れ込む。


マイクは落としてしまって、キーンと不愉快な音を立てた。


どうにか両手をついて顔面から倒れ込むことは回避したものの、会場内は騒然としてしまった。


司会者が慌ててマイクを拾い上げて「大丈夫ですか?」と、声をかけてくる。


それでも恥ずかしくて顔を上げることができなかった。


どうしてこんなところで転んでしまったんだろう。


慣れないヒールをはいているからだろうか?


そう思ったとき、頭上からクスクスと笑い声が聞こえてきた。


嫌な予感がして顔を上げると、美穂と有子が私を見下ろして笑っている。


足をひっかけられたんだ……!


そう理解すると同時に悔しくて恥ずかしくて涙が滲んだ。


視界がぼやけて周囲が見えなくなる。
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