極上男子短編集
ステージ中央に準備されているスタンドマイクの前に立つと一旦目を閉じた。


大きくを息を吸い込み、吐き出してからまた目を開ける。


一瞬客席が気になったけれど、視線を向けないようにした。


「私の特技は詩を暗記することです」


元々本を読むことは好きだった。


この日のために好きな詩を見つけて、暗証できるようにしてきた。


それくらいしか、私にできることはない。


「春の日差しの中　歩くあなたの背中　追いかけて私　未来を夢見る」


それは春に恋をした少女の詩だった。


わかりやすく、簡潔にかかれている文章ならきっとみんなも聞いていて飽きないと思ったのだ。


暗記している詩を読み上げている間にだんだん緊張が解けていくのを感じた。


お客さんの目も今はもう気にならない。


自分の声だけが自分の耳に届いてきている。


そして詩は最後の一節になった。


これを暗唱すれば終わりだ。


そう思って息を吸い込んだ食後……バシャッ！　嫌な音がしたかと思うとお客さんたちがどよめき、悲鳴が上がった。
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