極上男子短編集
今すぐここから逃げ出したい。


だけど水を吸ったドレスは重たくて、逃げることもできない。


どうすれば……。


絶望的な気分になったとき、ひとつの足音が階段を登ってくるのが聞こえた。


その足音は躊躇することなくこちらへ向かってくる。


視線を向けるとそこには五十嵐浩介が立っていた。


こんなことになってしまった私を見て軽蔑しているのだろうか。


五十嵐浩介はチラリとこちらを見ただけですぐに視線をそらしてしまった。


その態度にチクリと胸が痛む。


もういい加減呆れてしまったのかもしれない。


そうだよね。


あんなに頑張って応援してくれたのに、こんなことになったんだもん。


嫌になっても当然だった。


頭では理解しているはずなのに、急に涙がこみ上げてきた。


目の奥がジンジンと熱くて止められない。


「ふっ……」


両手で顔を覆って嗚咽を漏らしたときだった。
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