恋に落ちたら
「悟くんは慣れてるんだね」

私は自分がこういうことに慣れていないのが恥ずかしく、憎まれ口のようなことを口にしてしまった。　

「うーん。年相応に多少の経験がないとは言わない。みのりに嘘はつきたくないからな。でもどれも長くは続かなかった」

そんな言葉を聞き、私はショックを受けた。
私は彼の腕から目一杯の力を込め抜け出した。

「俺はみのりよりも5歳年上だ。だから相応の経験はあると言わざるを得ない。けれどこれからはみのりだけだ」

「遊びで付き合ってたってことですよね？　真剣に付き合っていたのではなくて、悟くんはそういうことができる人なんですよね？」

私の問いに気まずそうな顔の悟くん。

「私は私だけを大切に思ってくれて、私も相手を大切にできる人と思い合って結婚したいんです。この人！　と思う人といつか恋に落ちる日が来ると思って待っているんです」

「みのり……」

周りの人が私たちをチラチラと横目に見ている。

「悟くんとは幼馴染のままです。やっぱりこの先はありません。ごめんなさい」

私はガバッと頭を下げ、もと来た道を引き返すと出口へ向かった。
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