恋に落ちたら
***
小さな頃から心に留めていたみのりとの結婚が現実となりそうになり俺はどうにかなりそうなほど高揚していた。
小さな頃から日下部の家やうちを行き来する関係でみのりともよく会っていた。その頃はまだ弟の(とおる)も生まれていなかったので親が話している間はよく2人で遊んでいた。
みのりは真っ白な肌に、少し茶色みがかった髪の毛と瞳、ふんわりとした柔らかそうな髪の毛で、まるでお人形のように可愛らしかった。
大きくなるにつれ「さっくんと結婚するー」なんて可愛いことを言い出し、俺はこんな小さな子の求婚なのにドキドキしたのを今でも思い出す。
成長と共に俺は学校生活が忙しくなかなかみのりと過ごす時間は取れなくなっていたがお正月など時折見かける姿になんとも言えない気持ちになっていた。
俺は高校生になり、両親からそれとなく日下部の家との約束の話を聞かされた。
もちろん口約束でお互いの気持ちもあることから強制的ではない。ただ、昔そういう話があったという事実だけの話だった。
俺はこの話を聞き、浮き足立つのがわかった。
みのりのことを妹のように思っていたつもりだったがそうじゃなかったと自覚した。
もちろんまだ小さいみのりにこの話は現実的ではないだろう。日下部の両親も話しているとは思えない。けれどもし未来にそんな可能性があるとするならば俺はその日に備えておきたいと自然と思った。
この日を境に将来の方向を考えるようになった。
日下部製薬の力となれるよう薬学の知識を持つこと、経営の勉強をすることを両立させるため高校、大学はひたすら勉強の日々だった。けれど将来の人間関係を築くため程よく付き合いも持っていた。サークルに属し、友人と旅行に行くこともあった。充実した生活を過ごし、正直なところもう口約束だけのみのりとのことは忘れていいのかもしれないと流されたこともあった。同年代の女の子が近寄ってくることが多くなり、その場の楽しみを覚えてしまった。けれどどの子とベッドを共にしてもこのまま永遠に、とは思えなかった。
大学を卒業し病院で働き始めても同僚たちから声がかかることが多かったがもう俺にはどんな女の子から声がかかろうと真面目に将来を考えるような付き合いができるとは思えなかった。
年に一度しか会わないみのりのことが気になって仕方なくなっていた。
もう腹を括ってみのりの婚期がくるのを待つしかないと思った。
そう思ってからはまるで僧侶のような暮らしをしていた。相変わらず声はかかるが応じることがないため徐々に誘われることが減ってきた。
だから遊んだと言っても学生の頃が最後。
でも遊んでいたことは事実だからみのりに伝えたが……どうやら伝え方を間違ってしまったようだ。
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