恋に落ちたら
「悟くんのことはいい人だと思ってる。けどね、親が仲がいいからって私たちの結婚がうまくいくとは思わない。お互い相手を見つけるのがベストじゃないかな?」

私はさっき感情的になったことを反省し、落ち着いて話をした。

「悟くんも今までお付き合いしてきたみたいに好きな人を見つけた方がいいよ。私だってこれから好きな人を見つけたい。恥ずかしいけど今まで恋愛したことがないの。だから私は恋に落ちて、きちんと恋愛してから結婚したい」

ハンドルを握り何も言わない悟くんの様子を探るように見つめると少しだけ寂しそうな顔に見える。

「悟くんにとってもこの前話していたみたいに私はウサギを抱きしめていた子供としか思えないでしょう?」

「そんなことない」

「え?」

小さな声で悟くんが何か言った。
そんなことない、って聞こえた気がする。
私は悟くんの横顔から目が離せない。

「さっきも言ったけど俺はみのりと恋愛したいと思っている。子供だとも妹だとも思っていないからキスもできたよ。みのりも俺のことを子供の記憶から一度クリアにして男として見てほしい」

男として?
その言葉にドキドキする。
どうしたらいいの?

改めて今度は悟くんが私の顔を覗きこみ、私もふと顔を見ると前と同じ優しい顔があった。

この笑顔には昔の悟くんもいて、でも大人の悟くんも感じる。
悟くんは私の返事を求めないのか、苦しそうに笑った表情を作っているように見えた。

「お昼ご飯を食べ逃したな。何か食べにいかないか?」

こんな表情の悟くんに言われてしまっては断ることもできずにいた。
すると嫌ではないと解釈したのかシフトレバーをドライブに入れ車は動き始めた。
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