恋に落ちたら
「ここまできたんだから漁師丼でも食べて帰ろうか」

そんな提案に正直なところホッとした。
フレンチやイタリアンなどのお店で向かい合って食事をするのは今は無理。

車を出して程なくしたところでお店を見つけ、パーキングに止めた。

気取った感じではなく地元のお店という雰囲気があり、なんとなく緊張しなさそうで安心した。
店はお昼時を過ぎたせいか客はまばらで、すぐに席へと案内された。
私たちは向かい合って座るが会話が何も思いつかず注文を終えると無言になってしまった。
美味しいはずの漁師丼は気まずい空気の中味わうことは出来ずひたすら口に運ぶだけだった。

「海鮮は嫌いか?」

突然話しかけられて驚いた。

嫌いじゃないです、とだけ答えるとまた無言になってしまったが小さな声が聞こえてきた。

「そうか。なら良かった」

ホッとしたような声で、悟くんに気をつかわせてしまったのだと思うとなんだかいたたまれなくなった。
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