恋に落ちたら
ホテルの中にある日本料理「みかど」の和室に私たちは向かい合って食事をしている。

「いやぁ、みのりちゃんがいつお嫁さんに来てくれるのかと楽しみにしていたんだ。ようやくこの日が来るな」

「こっちこそ悟くんとみのりが結婚して田神と親戚になるなんて信じられないな。嬉しいよ」

両家の両親は勝手に盛り上がり、お酒もどんどん進んでいる。
父親同士は大学の頃からの友人で、今もゴルフに行ったり飲みに行ったりととても仲がいい。母親同士も父親ふたりが出かけた日は子供連れでお互いの家を行き来していたので勝手知ったる仲だ。
母親同士の話はいつも長く、私は悟くんに遊んでもらうのが常だった。
けれど5歳も歳が離れているため徐々に彼が不在のことが多くなり顔を合わせる回数も減って行った。
私も部活が始まると母に付き添って出かけることも減り田神のおじさまやおばさまに会うのは新年のご挨拶くらいになっていた。
別にそれでも困ることはなく、気にもしていなかった。

しかし、1週間前突然父に見合いの話を持ち出された。
聞けば私が生まれた時に田神のおじさまと将来結婚させようと約束していたとのこと。
25年も前の話なんて時効じゃない、と訴えたが「そんな冷たいこと言わないでくれよ」と情けない声で父に言われてしまい、これ以上強く言えなかった。

「悟くんとはもう何年も会ってないし、向こうも困ってるはずだからね。お父さんの顔を立てるために行くけど……本当は行きたくない。けれど、義理で行くだけだから絶対に断ってよ!」

「分かった。でも悟くんはいい男になってたからみのりも気にいると思うよ」

私がジロっと睨むと父はそそくさとその場を後にした。

そして今日に至る。
まさか着物を着せられるなんて思いもよらず、朝から叩き起こされ連れ出された時には驚いた。あれよあれよと仕立て上げられ、この場に着いた時には辟易していた。
その上、両家の父親は上機嫌でこんな話を聞かされますますうんざりだ。
母親同士も久しぶりで話が弾み、私のことなんて気にもしていない。
出てくる料理に舌鼓を打ち、私は早くこの会が終わるのを待つしかない。
ふと気がつくと悟くんも同じように黙々と食事をしていた。
きっと彼も両親に強引に連れてこられたのだろう。
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