恋に落ちたら
訳がわからぬまま先ほどの席に戻るとみんなから声がかかった。

「やっぱり仲良しね」「これで安心だな」

と口々に言われ、ハッと我に返ると悟くんが笑いながら私の肩を抱いたままでいた。

「あ、これは!」

「昔から仲が良かったものね。しばらく会わなかったから心配していたけど私たちの取り越し苦労だったね」

ちがーう。
本当に悟くんとは結婚したく無いの。
私は首を振るが、みんなはまた会話に花が咲いてしまった。

悟くんは私の肩をぽんぽんと叩き、まるで諦めろと言っているよう。
私がキッと睨みつけるが、それさえも笑い飛ばされてしまった。

家に帰るとすぐ、両親にこの話は無かったことにして、と言おうと意気込んでリビングに入ると何故か先ほど別れたはずの悟くんが座っていた。
私が着物を脱ぎ、着替えをしている間に我が家に来たらしい。
両親とも上機嫌で、悟くんの隣へ腰掛けるように言われた。
嫌だと言いたいが、言い出せない雰囲気に渋々彼の隣に座った。しっかりと距離をとり、人ひとり分空けて座るとわざわざ悟くんが詰めてきた。

「みのりとお付き合いしたいってお願いしにきたのよ。意気投合したのね。ホッとしたわ」 

そう言うとうっすら涙まで浮かべている姿に呆気に取られた。
私は横を向き、彼を睨みつけるが気がつかないかのように正面をむいたままで私の顔を見ない。

「みのりはどうだ?」

昨日まで散々父に断るようにお願いしていた手前、私に確認をとってきた。
もちろん嫌に決まっている。
けれど母の涙に弱く、強く言えない。

「少し考えてみる」

「そうか、そうか。悟くん、それならひとまず付き合ってみたらどうだ? 私たちは2人さえ良ければ同棲してもいいと思っている。君を信じているよ」

「ありがとうございます。じゃあ、みのりちゃん。明日デートしよう。10時に迎えに来るから」

そう言うと私の頭にポンと手を乗せ、帰っていった。
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