恋に落ちたら
お会計をしながら何の気なしに改札口へ私の視線が向いた。
すると先ほどまでずっと姿を探し続けていた悟くんの姿が見たかった。

「うそ……」

そこには髪の長い女性と腕を組みながら歩く悟くんがいた。
悟くんと同い年くらいに見えるその女性はすらっと背が高く、ミルクティー色のボブがとても似合う。彼女よりも背が高い悟くんのことを見上げていた。その目は同性から見て好意を持っているのがよく分かった。
彼女の手を解く様子もなく2人は改札に入って行ってしまった。

どういうこと……?

2人の姿を目線で追いかけたがそのうち人混みに紛れ、見えなくなってしまった。
呆然としてしまったが店員に声をかけられ、ハッと我に返った。
店を出て改札へ向かうがもう2人の姿は見えない。
見間違いだったのだろうか。
スマホを確認すると既読になっていたが返信はなかった。
胸の奥がなんともいえない感情で埋め尽くされる。
あれはやっぱり悟くんだったの?
あの彼女は何?
私はよろめくようにベンチに座り込んだ。
このところ悟くんとのメッセージのやり取りが楽しくて仕方なくなっていた。会えなくても私のことを気にかけていてくれると思うだけで胸の奥が温かかった。こんな感情は初めててどうしたらいいのか自分の気持ちなのに持て余していた。
今日会えると思っただけで心が弾み、楽しみにしている自分がいた。会えばこの気持ちがなんなのか分かるのかもしれない、と心のすみで少し考えていた。
でも、連絡が取れず彼と他の女性が歩いているのを見ただけで喉の奥が苦しくなった。
私と会う約束だったはずなのに、と思っただけで胸が張り裂けそうなくらいに苦しい。
彼女が悟くんを見る視線も組まれた腕も全てが私の心をかき乱した。
ふと気がつくと目元から涙が流れ落ちていた。私は泣いているの?手で目元に触れると濡れている。
無自覚なままに涙がこぼれ落ちていたようだ。慌ててバッグからハンカチを取り出すと目元を押さえた。
< 40 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop