恋に落ちたら
コンコン。
しばらくしてまた部屋のドアをノックされた。

「みのり? 入るわよ」

母は有無を言わさず部屋に入ってきた。

「悟くん帰ったわよ。どうしたの? 付き合ってるのよね? ケンカでもしたの?」

ベッドに座り、私の布団を優しくポンポンとしながら話しかけてくる。

「ケンカじゃない……」

「ならどうしたのよ。みのり、話してくれないとわからないのよ」

母の優しい声に私の涙腺はまた緩んでしまう。

うぅ……
鼻をグスグスさせているとティッシュを渡される。
一人娘である自分に母は時に厳しく、時に友達のような接してくる。

「昨日悟くんと仕事の後に会う約束してたの。でも会えなくて」

「それはお互い仕事だったんだから仕方ないこともあるわね」

「うん。でもね、私が悟くんの病院の駅まで行って、近くのお店で時間を潰していたら悟くんが綺麗な女の人と手を組んで歩いてたあの」

少し驚いたような表情をしていたが、私の頭を撫でながら優しく問いかけてくる。

「それで悟くんにはその話をしたの? なぜみのりがこうして泣いているのか理由は知っているの?」

「ううん」

「現実から目を背けてはダメ。きちんと向き合わないといけないわね。それに、現実はみのりが思ってもみないことが起こったりするものよ。みのりがこうして悲しんでいたって悟くんは知りたいと思っているんじゃない?」

母の言葉に私は何も返せなかった。
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