恋に落ちたら
電車を降りるとそのまま公園に連れて行かれた。
お店に行くのかと思っていたので意表をつかれた。

「みのり、言いたいことがあるんだろ? なんでも言ってくれ。昨日のことは謝ることしかできない。悪かった」

木陰のベンチに私を座らせると頭を下げ謝ってきた。

「悟くん! もうそのことはいいんです。本当に気にしてないの」

「そうか? でもこれからもこういうことがあると思う。これだけはどうにもならないんだ。昨日みたいにあんな時間がかかってしまうことは稀だが、ない話ではないんだ」

「分かってます」

私は悟くんの胸元を見ながら頷いた。

「ならどうして顔を見てくれないんだ?」

あ……。
私が今朝も会わず、さっき待ち合わせしてからも目が合っていないことに気がついていたんだ。鋭い指摘にドキッとした。
今が話を切り出すタイミングなのかもしれない。

「昨日、悟くんには帰るってメッセージを送ったけれど私はその後も残ってあのカフェで夕飯を食べたんです。もし悟くんが駅を使うのを見かけたら会えるかもって思って。そしたら悟くんは確かに改札を通りました……女の人と」

「え?」

驚いたような表情をしている彼の顔を見てガッカリした。
見られてはいけないものを私は見てしまったんだと悟った。

「ごめんなさい。勝手に駅に行ってしまって。でもそこで悟くんは女の人と仲良く歩いてるのを見てしまいました。驚いたけど私がどうすべきか分かりました」

私は顔を上げ、悟くんの顔を見つめた。

「お試しは終わりにしましょう」

私は無理に笑顔を作った。

「ありがとうございました」

そう言い、この場を立ち去ろうとするが、悟くんに手首を咄嗟に掴まれた。

「待って!」

グイッと引き寄せられるが、私はその手を振り解いた。
さっき電車の中で好きと言われ本当に嬉しかった。胸が温かくなるのが分かった。でもそれは日下部製薬の娘だからだったのだと思うと胸が張り裂けそうになった。
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