恋に落ちたら
ようやく彼も私もベンチから立ち上がることが出来た。

「あ、タオルを洗って返します」

「いいんですよ。気にしないで」

彼はそう言うと私の手からタオルを受け取ろうとしたが、そのまま返すわけにもいかない。化粧が落ち、タオルについてしまっているのを返すなんて非常識なことはできない。

「お願いします。洗わせてください」

「気にしなくていいのに」

「かき氷もご馳走になったし、タオルを返す時に私にご馳走させてね」

驚いた表情の彼に、やっと自然に笑いかけることができた。

「火曜日は予定ある? ちょうど内勤だから定時で上がれると思うんだけどどうかな?」

「講義があるけど5時くらいに終わります」

「じゃ、駅に6時に待ち合わせでいいかな?」

「はい」

3日後に会う約束をし、駅で別れた。
そういえば名前も聞かなかった。
でもなんとなくそんなことは問題ではないと漠然と思った。また必ず彼に会えると直感していた。
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