恋に落ちたら
週末、両親は私の様子を伺うような素振りを見せるが特に聞き出されることもなく、私も重い口が開かず悟くんのことは何も話さずに終わった。

月曜日。
ようやく出勤前にスマホの電源を入れると流れ込むように着信やメッセージが入っていた。
私はメッセージを見ることはなく放置した。
あんな週末を過ごしたせいか仕事が思うようにはかどらない。小さなミスを連発してしまう。お陰で定時では終わらず、残業になってしまった。週の初めから残業とは情けない。でも社長の娘なのに一般社員として扱ってくれる周囲に感謝している。それに報いることができるよう頑張らなければといつも念頭に置いているが、ミスを挽回するためとはいえ20時を過ぎてしまった。
会社を出る前にスマホをバッグから取り出し確認していると朝よりもメッセージの数が増えていることに気がついた。着信も増えていた。
もう連絡してこないで欲しいと言わなくちゃ……そうでないと私の未練が残ってしまう。いつまでも彼のことが良くも悪くも気になってしまう。もうこれ以上私の心の中をかき乱されたくない。
私は意を決してメッセージを開いた。すると私のことを好きと何度も伝える言葉に涙が溢れてきた。もともとは親が勝手に決めた結婚かもしれないが自分にそのつもりはなく、親に言われる前から私のことを好いていたことが書かれており驚いた。私の夫になるのに必要だから薬剤師にも、経済の勉強もしてきたがその責を私に負わせるつもりはない。けれど初めからそのくらい真面目に私との結婚を考えていたと。いつもの軽口を叩くのとは違い、とても真剣な気持ちがつづられていた。
本当はもう連絡してこないで、と伝えるために開いたメッセージだったのに読んでしまったら感情が揺れ動いてしまう。
これは彼の本心なの?
職業選択の幅を広げてくれたと笑っていた彼の顔が思い出されるが、やっぱり私とのことがあって進路を決めたの?
また私は返信が出来ないままバッグの中にスマホをしまった。
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