恋に落ちたら
彼の話は私の話に通ずるものがあった。

私も悟くんのことが好きになっていた。
ううん、今も好き。
だから彼からのメッセージを読むたびに心が震える。
好きなものは好きだと言い切る拓人くんの言葉が胸の奥に刺さった。
私は何かしらの理由をつけて悟くんにちゃんと向き合ってこなかった。傷つくのが怖くて、私は逃げていたのだ。
本当は彼のことが好きなのに、女の人といる悟くんを見て嫉妬したくせに日下部製薬のための結婚と思いたかった。
あんなにメッセージが届くのを楽しみにしていたのに、悟くんは義務で送ってくれていたんだと思えば傷つかずに済むと逃げていたんだ。
なんで自分本位なんだろう。
彼はそんな私の態度を怒ることなく、何度も繰り返しメッセージや電話をくれる。
こんな私に愛想を尽かしてもいいはずなのに、今日も仕事終わりにスマホをチラリと見たらメッセージが届いていた。
【今日も一日、仕事お疲れ様】と書いてあり涙がこぼれそうになったばかり。
何の返信もしない私にまだこうしてメッセージを入れてくれる。
こんな彼の優しさに応えず、私はこのまま終わらせていいのだろうか。

いい訳がない!
もし明日からメッセージが来なくなったら、と思うと怖くなった。
彼と向き合わなきゃいけない。
私は拓人くんにお礼を言った。

「拓人くん、ありがとう。すごく大切なことを思い出させてくれたわ。拓人くんは私より若いのにブレない芯の強さがあって凄いね。私にも諦めたくても諦められないことがあったわ」

「え? みのりさん?」

彼は急に立ち上がって頭を下げる私に驚いた顔をしていた。

「拓人くん、お礼はまた後日にしてもいい? どうしても行かなきゃならないの」

「え?」

私の様子に驚いていたようだが、思い当たることがあるのか大きく頷いてくれた。

「この前泣いてたのが嘘のようですね。今のみのりさんは別人のようです。頑張って!」

「ありがとう」

急いで拓人くんと連絡先の交換をし、私はお金を手渡してお店を出た。
拓人くんはお金の受け取りを断ってきたが、今日は私が誘ったし、先に帰る失礼をするのも私。拓人くんに押し付けるようにお金を渡すと恐縮していたが、おつりは今度返しますからと言われ頷いた。

お店を出るとすでに時間は20時半になっていた。
日勤なら仕事が終わっているはず。もし当直なら出ないだろうが、どうしても今、悟くんに連絡がしたかった。
< 61 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop