恋に落ちたら
マンションのエントランスに着き、エレベーターに乗るとまた悟くんに抱きしめられた。少しでも離れていたくないと言わんばかりに抱き寄せられ、私も彼のシャツをぎゅっと握りしめた。どうしたらいいのか分からず彼の顔を見れない。彼の胸に顔を埋め、しがみつくことしかできない自分がもどかしい。

エレベーターはぐんぐん上昇し、8階に到着した。

先ほどと同じように私を抱き抱えると玄関へ向かった。
焦るように鍵を開け、部屋へとなだれこんだ。
玄関を入るとその場でまたぎゅっと抱きしめられた。

「会いたかった」

悟くんの声に喉の奥の方が締め付けられて苦しい。

「私も会いたかったです。何度も連絡をくれたのに返せなくてごめんなさい」

「いいんだ。こうして会いにきてくれたことがどれだけ嬉しかったか分かるか?」

「うん。私もいつも悟くんが来てくれて嬉しかったの。いつもいつも私はしてもらってばかりで何も返せてなかった。付き合うってことがわかっていなかった。してもらうばかりでなく、お互いのことを分かりあうためのお付き合いなのに本当にごめんなさい」

私はまた涙が溢れてきた。
涙声に気がついた悟くんは私から少し離れると目元に唇を当ててくる。
その優しい仕草にますます喉の奥が締め付けられ、もどかしい。

「悟くんが好きです」

悟くんのことが好きなのに自分を守るために隠し続けていたこの気持ちをやっと口にすることができた。
悟くんになんて思われてもいい。
私の素直な気持ちを伝えたい、その一心だった。

「みのり!」

ますます抱きしめる力が強くなったと思ったが、一瞬ふと力が緩んだ。
そして目が合うと私たちは磁石が引き寄せ合うように唇が重なった。
前にされた突然のキスとは違う。
私も彼に触れたいと心から思った。
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