恋に落ちたら
「メッセージにも書いたけど、みのりの見た女の人はただの同僚だ。同じ大学だったから仲は良かったが、それだけだ。アメリカで生まれ育ってきたから多少フランクなところがあるから誤解されがちだが、彼女には医者の彼氏もいる」

「うん」

「それから、前にも水族館でこの話になったが、社会人になってからは一切やましいことはない。時々見かけるみのりのことが気になって仕方なかった。こんなに歳が離れているからと自分に言い聞かせてきたが、それでもやはりみのりと結婚したいと思った。だからみのりに相応しい男になろうと拗らせてきたんだ」

「拗らせるだなんて……」

「十分拗らせてるよ。30のいい男が若い子に執着してるなんてさ。親が見合いの話を持ち返して来なかったらますます拗らせたままだった。また接点を持たせてくれた親にこれだけは感謝だな」

「うん」

「ただ、お見合いの日に俺と結婚するつもりはないと言い切られ、どれだけ失望したか分かるか? でも恋に落ちたいと言うみのりにまた俺は恋に落とされたよ。だからみのりにも他の誰でもなく、俺に落ちて欲しいと思った」

私の手を握る悟くんの手は少し汗ばんでいるように思う。緊張しているのか無意識に私の手をいじっている。

「必死でみのりを落とそうとしてもなぜか空回りしてばかりで、歯痒くて情けなくてさ。それでも諦めきれなくて何度もアタックしてしつこかったよな」

「ううん。私は悟くんからの言葉が嬉しくて、連絡が来るのも待ち遠しかった。恋に落ちるのを待っていたけど、それは違ったの。悟くんと恋に落ちたかったの。でも恋愛が怖くて踏み出せなくて、気がつかないふりしていたのかも。傷つきたくなくて、自分を守ってばかりで悟くんの気持ちまで考えられなかった。本当にごめんなさい」

「いいんだよ」

「悟くんのことが好きなのに好きって言わない自分が情けなかった。誰にも負けない強さが欲しかった。自分だけを見続けてもらうための努力をしたいと思った。悟くんが他の人を見つめる日が来るのが怖い。だけどそうならないように努力したいの」

「何度も言ってるだろう? 俺にはみのりだけだって。俺は他所を見る余裕なんてない。お前にもそんなことはさせないから」

「うん」

「俺はみのりと一緒になりたい。みのりを守っていきたい。結婚してください」

「はい」

流されるようなプロポーズではなく、きちんとお互いの目を見て言葉を交わした。

私の手を口元へ持っていくと薬指にキスをした。

「ごめん、せっかくのプロポーズなのに指輪も花もなくて」

「そんなのテレビの中だけ。もうわかってるわ、私の思い描く恋愛は現実にはないって。一緒に選びたいの。悟くんにしてもらうばかりではなく、一緒に歩いていきたいの」

「そうだな。これからは何でも話し合って、一緒に歩いて行こう」

私たちは自然とまた唇が重なり合った。
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