恋に落ちたら
急に黙り込んだ私に悟くんは何も言うことなくまた無言になり、車から流れてくる音楽だけがこの空気とは裏腹にだった。
私は窓の外に体を向け、外に見える海を眺めていると程なくして江ノ島にある水族館に着いた。

「お疲れさん。みのり、降りるぞ」

半袖から出ている筋肉質な腕でハンドルをさばき、さっと駐車してしまう姿はまたちょっとだけドキッとさせられた。

もたもたしているうちに悟くんは車を降り、助手席へと回りこんできた。
ドアを開け、私が降りるのを待ってくれている姿はどこかの王子様みたい。

「ほらいくぞ」

私の手を取るとチケットを買うためにブースに向かった。

何故手を握られているのかわからぬまま、私は握られた手をまじまじと見ながら引かれて歩く。

チケットを買うときだけ手が離れたが、またすぐに悟くんに右手を掴まれてしまう。

「みのりは水族館が好きだっただろう? 何から見るか?」

「あ、えっと……ペンギン?」

「よし、あっちだな」

館内の案内を見て私の手を引く悟くんはなんだか楽しそう。
その表情は記憶の中の悟くんと同じだった。

ペンギンの前にすると人がまばらで私たちは目の前で見ることができた。
水中にいるペンギンは私たちが歩くのに合わせて付いてくるように泳いでいる。
まさか?と思い私は引き返すとその子も向きを変えてついてきた。
水槽に人差し指をむけて、上へすっと指をスライドするとそれに合わせて浮上してきた。
その後も私について泳いでみたり、指に合わせて上下していたがそのうち飽きてしまったのか泳いで行ってしまった。

かわいすぎる……。

私が悶絶していると横からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
ハッと声のする方を見つめるとスマホ片手に笑いを堪えている悟くんの姿があった。
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