独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
「話がある」

晴臣がテーブルに着くと、瀬尾が呆れたように肩をすくめた。

「食後でいいだろ? 高級料理だって冷めたらまずくなる」

「三十分は何も届かないから心配は不要だ」

「は? なんでだよ。俺腹減ってるんだけど」

グチグチ言う瀬尾を晴臣がじろりと睨む。すると彼は不承不承と言った様子で席に着いた。

「なぜ呼び出されたのか分かってるよな?」

前置きを言うのも無駄に感じ、晴臣はいきなり切り出した。

「ホテルの件じゃないのか?」

驚いたことに瀬尾はとぼけるつもりのようだ。

「舟木美帆の件だ」

「ああ……そっちか」

瀬尾は馬鹿にしたように笑う。

「彼女に聞いた。どういうつもりだ?」

「どういうって、晴臣に女っけがないから気を遣ってやったんだよ」

「ふざけてるのか?」

「至って真面目。晴臣って俺らが新入社員の頃から仕事ばかりだったからな。それなのに結婚相手が瑠衣だろ? 少しは遊んだ方がいいと思ったんだよ。それでお前の性格に合わせて自然な出会いを演出しただけ」

晴臣は怒りボルテージが怒涛の勢いで上がって行くのを感じていた。

(何を言ってるんだこいつは。頭がおかしいのか?)

「お前のせいで舟木美帆のキャリアに傷がついた。遊ばれたことで傷つきもしただろう。罪悪感は湧かないのか?」

「別に。嫌だったら断ればよかっただろ?」

「断ってお前に嫌われるのが怖かったんだろう? それくらい誰だって分かる」

瀬尾は何かが欠落しているのではないだろうか。それとも悪びれない態度は演技なのか。
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