独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
「いや、俺はまだまだだからな。並み居る優秀な役員を押しのけてまで名乗り出ることは出来ない。株主もまだ認めないだろう。叔父か常務あたりがいいんじゃないか?」

神谷ホテルの上層部は神谷の親族が多いが、内輪揉めなどはなくとても良好な関係を築いている。

晴臣はいずれグループを背負って立つ気持ちを持ちながらも、まだ自分の番ではないと考えているようだ。

神経を削りそうな後継者争いなどがなくて、よかったと思う。

「まあ、父は当分引退する気がないみたいだどな」

「そうなんだ。でも腰はちゃんと治して貰わないとね」

今日有ったことなどを報告し合い、ふと沈黙が生まれた。

よくあることだが、晴臣の表情が曇った気がした。

(この表情のときって何を考えてるのかな……)

「瑠衣……何か有ったのか?」

予想外の言葉に、ドキリとした。質問を返されたような気分になったのだ。

「どうして?」

「いつもと違う気がするから」

「……そうかな?」

(うそ、顔に出てる?)

そうならないように気を付けていたと言うのに。

「悩みがあるなら相談して欲しい」

真摯に見つめられて、瑠衣は戸惑った。

(本当に心配してくれてるみたい。浮気してらなんて、やっぱり私の勘違いなのかな)

こんな状況なのに、彼の優しさを感じて、胸が温かくなった。
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